コロナ以前の私
私は2020年に新型コロナウイルスの流行が始まって以来、この時まで感染したことがなかった。しかし徐々に知人の知人が感染した話を耳にするようになり、2022年に入ってからは直接的な知人が感染したという話を聞くことも増えていった。私もいつ感染してもおかしくはないだろうという漠然としたイメージはあったが、依然として「感染してしまったらその時対応するしかない」と思っていた。
私にとって、おそらく他の人にとってもそうであるように、新型コロナウイルスは非常に忌まわしい存在であった。私は大学院生であるが、私の通う大学院は医療機関や施設等で実習を行うカリキュラムがあり、不要不急の県外移動をしないように常日頃から口酸っぱく言われていた。そのため1年半くらい就活以外の口実ではほとんど県外に出ていない。元々自然と旅行が大好きだった私は、コロナ前はあちこち飛び回っていたが、それができないことは大きなストレスだった。しかし、今年のお盆に、家族で北海道旅行する話になった。私はバイクで北海道に行ってみたかったので、家族の車と別に、フェリーにバイクを乗せる予約をした。家族は結局コロナ感染者が増えていることでキャンセルし、ご時世的に私もこの時に諦めるべきだった。しかし、私はどちらにせよバイクで行けるし、と思い、5日間の弾丸北海道バイク旅を決行した。結果、私は数日間、混沌とした感情とコロナウイルスを抱え北海道を彷徨うこととなった。まあ要は自業自得です。
1日目『予兆』
私のバイクde北海道旅行は序盤から不吉な予兆を見せていた。出発の1週間前にバイクのエンストトラブルが頻発するようになり、なんとかギリギリ出発日に間に合わせて応急処置をして出かけた。その後、現地に着いて走行中も、バイクのタイヤが岩にはまって転び、フロントブレーキが大破するなどのトラブルが起きた。今思えばこれらは全て旅の結末を暗示しようという神の思し召しだったのかもしれない。しかし私は神を信じていなかったので、そんなことお構いなしに旅を続けてしまった。
一人旅の予定だったが、バイクのブレーキを直さないと帰れないため、急遽道内に住む友人に一泊だけ身を寄せさせてもらえないか、と打診した。友人からの返事はOK。しかもその時、別の共通の友人2名も北海道旅行で訪れているとのことだった。人との接触ということでコロナのことも少しは頭をよぎったが、夏休みという無敵モードに突入していた私は「なったらその時だろ」と相変わらずのん気だった。久々に会った友人たちとの思い出話にも花が咲き、さて寝るかと横になったとき、「喉がちょっと痛いかな…」と感じた。すぐには寝られず、眠りについても「結構喉痛いな…」と何度も目が覚め、結局トータル3時間ぐらいしか眠れなかった。
発症1日目の症状【辛さ順】
・寝る前から徐々に喉が痛かった。
・よく眠れない。(喉の痛みによる弊害か)
・食欲がない。(この日北海道は30度越えで、その中でバイク移動を続けた私は熱中症気味になったと思っていた。なので、コロナによるものかは不明)
2日目『感染疑惑』
翌朝起きたら、喉の痛みは相変わらずあり、そして体がものすごくだるい。多分熱があるだろうと思った。オミクロン系統の株は喉の痛みが強いというのを聞いたなと思い、その時点でもう薄々「コロナなのではないか」と感じ始めていた。私はすぐ友人たちに「コロナになっているかもしれない」と打ち明けた。友人たちは新卒間もない社会人もいて、移されて会社を休まなければならなくなることをとても恐れているようだった。お盆休み明けなのに長期休みで穴を開けるというのは下っ端にとって辛いものがあるだろう。
私は友人たちに迷惑をかけないようバイクだけ一旦友人宅に置かせてもらい、ホテルへと向かった。今思えばこの選択だとホテルの人に迷惑になるため間違いであっただろう。しかし私はお世話になった友人には迷惑をかけたくないという思いが強く、またその時の私は熱で頭が働いておらず、何が正解か分からなくなっていた。
夕方ホテルに到着し、購入した体温計で熱を測ると、39.3度。ここまで正気で歩いて来られたので37度台くらいと思っていたが、まさかこんなに高熱だとは。すかさず解熱剤と購入したウィダーinゼリーを流し込みベッドに横になった。この時はお盆真っ只中だったため当日中に診療してくれる病院は見当たらず、翌日発熱外来がある病院を当たってしらみつぶしに電話することになった。夜になってもう一度熱を測ってみたが依然38.9度。解熱剤が仕事をしてくれない。ろくに働いていない頭に、いろいろな不安がよぎる。このお盆に病院を予約できるのか?もし陽性だったらどうなるのか?…友人に土下座?そしてホテルにて自費で10日間隔離?そうなれば私の財布は爆発し、学生卒業まで一生異常労働に身を捧げなければならないかもしれないと思った。「ああ神様お助け下さい。私は日頃より善行を積み重ね生きてきました。こんなのあんまりだ。酷すぎる!」しかし何を思っても無駄なことはもう分かっていた。普通に考えて全部自分が悪いし、全てはどうせ明日わかるのだからと、感情をスイッチオフしてぐっすり眠った。
発症2日目の症状【辛さ順】
・高熱(最高39.3度)
・喉が痛い。
・食欲がない。(1日でウィダー2本しか飲んでない)
・断続的に咳が出る。
3日目『コロナ発覚』
7:00に起きて、熱は相変わらず38.8度。サウナに入っていたのか、というくらい汗をかいていた。再びウィダーと解熱剤を流し込み、朝から各所の発熱外来に鬼電の如く電話をかけまくるが、お盆の発熱外来はどこもほとんど繋がらなかった。2時間にわたり電話をかけ続けたが、繋がらず、最悪の状態が頭をよぎった。さらに、解熱剤を飲んでも熱は38.5度。イライラしてきた。どこも受け入れてもらえなかったら私はどうなるのか。行く先々で検温によりはじかれ、最後はどこに行く?地元にはいつ帰れるのか?こんな高熱じゃもうバイクにも乗れないぞ?フェリーの帰りの便はキャンセル?変更?等、緊急事態に即して頭が高速フル空周りをしていた。「試される大地」とも呼ばれる北海道は、私の身体と精神をことごとく試し、敗北させ、崩壊させていった。私は自分が完全なる弱者であることを思い知った。
ようやく昼過ぎに発熱外来に予約を取ることができた。ホテルから30分程度の距離を死にそうになりながら歩き、発熱外来に到着。そこではフェイスシールドとマスクを付けた、綺麗な看護師さん(女性)が出迎えてくれた。「どうやってこちらにいらっしゃいましたか?」と天使のような声で聞かれたので、「ホテルから歩いてきました」と言うと、困った顔をされてしまった。どうやら道民の方達は家族の車による送迎で来るのが原則らしい。「申し訳ありません。旅行者なので他に手段がなく、こうするしかなくて」というと、「分かりました」といって、待合室に通していただいた。
待合室は広く、椅子の間隔も相互に3メートル以上は空いていた。なおかつ空気を吸引して浄化する(?) 機械が搭載されたついたてが置かれていて、感染に対する徹底した防壁が作られていた思う。さらに医師とは直接対面せず、待合室にいるまま看護師さんに鼻奥に綿棒を突っ込まれて検体を採取され、あとは隔離したまま結果待ちだった。
結果はやはり陽性だった。今までにない症状が出始めた時からおそらくコロナだろうという確信はあったので、もはや慌てることはなかった。今後の対応は保健所が決めると言うことで、病院からはお金を支払って出ていくよう言われた。出ていく際に、「お盆だから保健所もつながらないかもしれません」と仁義なきアドバイスをいただき、取り付く島もなかった。ああ無常。仕方がないから外に出たら今度は保健所に鬼電するか…と思ってヨロヨロ歩いて出て行こうとすると、先程の看護師さんがやってきて、「これからどうするの?」と聞いて下さった。「行き場がないので屋外に出て人のいないところで保健所に電話します」と言うと、「ちょっと待って」と言って、医師に何か相談しに行った。「そんな体調じゃ危ないから、今先生にお願いしたから全部片付くまでここに居ていいよ」と言われた。正直疲弊し切っていたせいもあり、優しい看護師さんの背後に後光が差してきたのが見えてきて、私の目には涙が滲んできた。しかしすかさず「涙も感染性物質だよな」と賢者に戻り、全力でゆっくり頭を下げて感謝の念を示した。その後保健所と連絡がとれ、宿泊療養のホテルが決まったのは4時間後のことだった。もう18:00を過ぎ、日も傾いていた。それでもただ、誰かに迷惑をかけずに雨と風が凌げる寝床があるという事実が死ぬほどありがたかった。しかも、「療養施設の宿泊費用は北海道が負担します」とのこと。こんな無礼者の旅行者であっても助けて下さったことに、有り難さと申し訳なさがMAXになった。看護師さん、北海道の皆様方、大変深く感謝申し上げます。いつかお金のある社会人になったらこの御恩を全力でお返しします(北海道にお金を落として)。どうぞよろしくお願い申し上げます。と強く心に誓った。
39度近い熱の中、旅先での緊急対応に追われ続けて体が疲弊していたため、宿泊療養施設(ホテル)のベッドに着いた後の記憶があまりない。今回の宿泊療養施設に関しては、情報発信が禁止とのことで、ここでも詳しく書くことはしない。宿泊療養施設全般について言えば、国からの補助金によって一部のホテルが施設として使われ、中では感染対策が万全に行われており、感染者の健康状態の管理も徹底されている。2022年8月時点では、症状のある者は、発症から数えて10日間の隔離を完遂して出てくる仕組みになっている。本来であれば、陽性が判明した後、隔離に必要なものを家で準備する時間が与えられるが、私のような旅行者の場合、着のみ着のまま隔離が始まるので、その点は気をつけてほしい。
発症3日目の症状【辛さ順】
・高熱(38.8度)
・相変わらず食欲がない。
・3日間ウィダーしか飲んでなくて気づかなかったが、食べ物の味がしなくなっていた。もっと正確には、鼻づまりではないのに、鼻詰まりになっている時の味覚の感じ。塩味や甘味は感じるが、風味がない。さらに、中濃ソースや味噌はなぜか強烈に苦く感じた。
・喉が痛い。
・断続的に咳が出る。
発症4日目『共倒れ』
朝の時点で37.8度と、多少熱が下がっていた。しかし、猛烈に体がだるい。朝起きてスマホを開くと友人たちのグループラインに大量のメッセージが入っていて、発熱報告が相次ぎ、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。私が友人の家を出た時にはもう遅過ぎたということだ。私は彼らに申し訳ないと思いながらも、必要以上に謝罪をするのはやめようと決めた。コロナは気を付けていてもかかる。私の場合は旅行をしたという点ですでに大罪を犯していたのかもしれないが、北海道へ行く前は授業もオンラインで外出はほぼしていないし、日頃からマスクと手洗いうがい消毒に気をつけていた。行きのフェリーでも人と一切会話せず、着いてからも1人のバイク行動で晴天時は野宿し、密も基本避けていたと思う。確かに友人の家に一泊お邪魔したことは間違いだったかもしれないが、感染対策を怠った者がなるものと言う認識や、なった者を責めるような風潮はいい加減改められなければならないと思った。もしこれを見ているあなたがコロナに気をつけていたにも関わらず感染してしまい、それを責めたり嫌がったりするような人間がいたら、そんな人とは縁を切ってもいいと思う。それくらい、もはや誰がなってもおかしくない状況である。
発症4日目の症状【辛さ順】
・倦怠感(前日までは感じなかったが、緊急対応に追われたせいで一時的にバフがかかっていただけだろう)
・熱(最高38.2度)
・何を食べても味がしなくて食欲がわかない。
・喉が少し痛い。
・断続的に咳が出る。
その後の経過
発症5日目に熱は37度台、6日目には平熱に戻った。倦怠感も8日目くらいまでだった。喉の痛みは5日目でほとんどなくなり、咳の頻度も日が経つにつれて減り、10日目でなくなった。(しかし、14日目くらいまで痰が絡む感じがした。)
食欲は、隔離が終わるまでの10日間ずっと無かったが、以降戻った。息苦しさについて、湯船に入ると(体温が上がると?) 短時間でのぼせている感と、息苦しい感覚が生じ長風呂できないという状態になり、これが10日目ごろまで続いた。
コロナ経験以降の私
今回私が最も感じたのは、これだけ人との接触を避けていてもかかる時はかかる、ということだ。今回は友人との接触後に感染して発症したという可能性も0ではないが、出会ってから半日も経たず発症したとは考えづらいので、やはりそれ以前にどこかでもらったのだろう。それでも思い当たる濃厚接触な場面は見当たらない。考えられるとしたら温泉か、バイクの修理屋の人とお互いマスクをして会話したくらいである。「これだけ気をつけているし、ワクチンも3回打っているのだから」という慢心が、いざ現地でコロナが発症した場合の対応の遅れを生じさせていたと言える。その点は非常に深く反省しなければならない。今後は、感染することを覚悟しても行く価値があるのかよく考えた上、万が一の対応も考えてからでないと旅に出る資格はないなと思った。
私がコロナにかかって生じた考え方の変化として、感染する経路や状況を具体的に意識できるようになったことが挙げられる。私は以前、「自分はかからないかも、かかってもワクチン3回打っているし軽症なんじゃないか」と無根拠な自信があった。私はこれまでサイズの合わないマスクをつけていて、頻繁にずれてくるので、ドアノブなどを触った後にもしょっちゅうマスクを触って直していた。換気なども大学院の研究室にいるときはいちいちやらなかったこともあった。これからは感染するかもしれないと言う前提がはっきりとあるので、細かい部分も気をつけていくことができそうだ。
これより下記は全く科学的根拠のない個人の感想だが、自分で気をつけられるところはより一層気をつけようと思う一方、この先も人との交流や外出自体を減らすべきと言う考えに私は疑問を感じる。リモートに代替できることは積極的にそうしていくべきと言う考えには賛同するが、直接会わないと伝わらない感覚や感じられないことは絶対にある。大学時代のサークルの後輩などの話を聞いていても、やはり直接会えない人間関係の形成というものは歪なところもあって、以前とは大きく異なると感じるところもあるからだ。
そうはいっても、やはり感染のリスクはなるべく避けるべきことには変わりはないだろう。若者や基礎疾患のない人は重症化リスクが低くとも、リスクが高い人に知らないうちに感染させてしまうことは危険だし、コロナには後遺症の可能性もある。*感染から3ヶ月時点でも、半数程度の人が筋力低下、4人に1人程度が倦怠感などを報告していて、少なくとも10%程度の人は1年以上にわたり何らかの症状に苦しむことがあると報告されている。その点が巷によくいる「インフルエンザと同列でいいじゃん論」の無理がある所ではと感じる。(私の場合、幸い後遺症らしきものは今のところ全く経験していない。)
*https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/after-effect/detail/detail_10.htmlなど
また、今回友人たちに感染させてしまって感じたことであるが、コロナは感染力が悪魔的である。私はかつてインフルエンザになった時、一緒に生活した同居家族6名は1人も感染しなかった(もっと言うと家族の中で私だけがインフルエンザワクチンを打ち、私だけが感染した)。しかし、今回の友人宅では換気や手洗いなど気をつけても自分以外の3名全員がもれなく感染したので、1データに過ぎないが、かなり強力な感染力を持ったウイルスであることは間違いない。さらに、友人全員が私と会ってから3日以内に発症している。おそらく今回私がかかったのはオミクロンの中でも発症が早いと言われるBA.5の株だったのではないかと思う(あくまで推測)。その点を考えると、数日の旅行の途中でコロナが発症してしまうという恐ろしい事態も容易に起こりうることだと言える。
何にせよ結局、人と会ったり外出したりするメリットと、自分がコロナになったり人に感染させたりするリスクを天秤にかけながら、誰しもが各々の答えを導き出していく以上ないのではないかと改めて感じた。
結論
1.感染しないよう十分に気をつけよう。
2.感染すると言う前提で、感染した場合の対応も調べておこう。
3.気をつけてもなる時はなるので、感染した人や自分を責めないこと。
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