今回はインドネシアのバリ島に旅行に行った際に、現地の人に聞いたバリ人の宗教観についてご紹介します。
世界有数のリゾート地であるバリ島には、きれいな海から山間の寺院まで様々な観光資源があり、毎年多くの観光客が訪れています。そんなバリ島ですが、実はただの観光地ではなく、住民の9割以上が熱心に宗教を信仰している土地でもあります。
例えば、飲食店からアパレルショップまでほぼすべての店舗の前に、以下のようなお供えものが置いてあります。
なぜすべてのお店に置いているかというと、バリ人はお供え物をしていないお店に入ると、良くないことが起きるかもしれないと考え、入店を避けるからです。それほど、バリ人というのは神様に敏感です。他にも、毎日のように島内のいたるところでお祭りが行われているなど、宗教が非常に生活に密着した土地です。
この記事では、現地の人から直接聞いたバリ島の宗教事情を詳細に紹介します。
バリ人が信仰する独特な「バリ・ヒンドゥー教」
バリ島では9割以上がヒンドゥー教徒です。ヒンドゥー教の教徒は主にインド人であり、教徒の数でいうとキリスト教とイスラム教に次いで世界3位であり、仏教よりも教徒数が多いです。
そんなヒンドゥー教ですが、バリ島で信仰されているのは、一般的なヒンドゥーとは少し異なる独特な「バリ・ヒンドゥー」と呼ばれるものです。その特徴は「唯一神」がいることです。
ヒンドゥー教は多神教であり、3大神であるブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ、他にもガネーシャ、インドラなど様々な神様を信仰しています。
バリ・ヒンドゥーにおいても同様にこれらの神様が信仰されていますが、「すべての神様は唯一神サン・ヒャン・ウィディ・ワサの化身」と考えられています。つまり、シヴァもヴィシュヌも他の神様も全部サン・ヒャン・ウィディ・ワサということです。
私は最初この解説を聞いてもなにも理解できなかったのですが、現地の人曰く、人という存在は、職場なら〇〇社の課長、家に帰ったらお父さん、実家に帰ったら息子のように複数の側面、ある種の複数の機能を持つ存在であるように、サン・ヒャン・ウィディ・ワサも創造と破壊の機能を持つシヴァ、富と学問の機能を持つガネーシャというように複数の機能を持つ存在であるという考え方らしいです。
なので、シヴァもガネーシャも結局はサン・ヒャン・ウィディ・ワサの一つの側面でしかなく、バリ・ヒンドゥーを信仰する人はみんなサン・ヒャン・ウィディ・ワサを信仰していると考えられているので、ある種一神教的な宗教観を持っています。
なぜバリ・ヒンドゥーだけに唯一神がいるのかというと、インドネシアの建国五原則の「唯一神に対する信仰」の影響です。実はインドネシアは9割以上がムスリムのイスラム教国家であり、インドネシア全体でみるとバリ・ヒンドゥーは非常に少数派です。そのため、バリにおいてもサン・ヒャン・ウィディ・ワサという唯一神を作ることによって、インドネシアの原則を尊重しつつバリのヒンドゥー教を信仰できるようにしたと言われています。
じゃあ、「サン・ヒャン・ウィディ・ワサってどんな神様なのか?」と疑問に持つと思うのですが、現地の人が言うにはサン・ヒャン・ウィディ・ワサという神様の存在は我々のような人間には理解が及ばない、認識できないので、わからないそうです。
バリ人が神様の存在を信じる理由
神を信じる理由は、自分の力が及ばない大いなる力は神の御業であると考えているそうです。例えば、太陽が東から登り西に落ちることは我々には到底コントロールできないですが、そのような事象を起こすのは神様であると考えています。
なので、神様への信仰を怠ると自分の身に悪いことが起きると考えるそうです。例えば、バイク運転中に、本来まっすぐな道なのにもかかわらず、それがY字路に見えて事故を起こしてしまうなどの災いなどです。
しかし、このような説明を聞いても多くの人は、地球が西から東に向かって自転しているから、地球から見ると太陽が東から西に移動しているように見えるだけであって、神様とは関係ないと思うでしょう。私も説明された際はそう思いました。
なので、日本人でも理解しやすいように説明すると、つまるところ「運、縁起」です。自分の力が及ばない領域を日本人は運と考えていますが、それに近い感覚だと思います。
神を信仰することで自分の力が及ばない部分で悪いことが起こらず、良いことが起こるように望むわけです。今日のラッキーカラーを身に付けたり、受験の成功を神社に祈ったり、一粒万倍日に宝くじを買ったりすることと大体同じです。
お供え物「チャナン」の意味
冒頭でも述べた通り、町のいろんなお店の前にお供えものが置いてありますが、これはチャナンと言います。
観光客がよく見るチャナンは店の前の地面に置いてあるものですが、実はこれは悪霊、悪い神様用です。悪霊、悪い神様は低いところにいると考えられているので、自分たちの邪魔をしないことを祈りながら地面に直接お供え物を置いています。たまたまよく目につくものが外に置いてあるチャナンなだけで、実際は家や店のあらゆるところにチャナンはおいてあります。
それぞれのチャナンは、神様への尊敬や感謝の示しであり、これを忘れると災いが起きたりすると考えているため、みんな熱心にお供え物をしています。
ほぼ毎日お祭りが行われる理由
バリ島を観光していると、1、2日に1回くらい祭事を見かけることがあります。それには2つの理由があり、「寺院の多さ」と「民間人の祭事の多さ」です。
1つ目の寺院の多さについて、バリ島内には大量に寺院がありますが、それらの寺院は約200日周期で祭事が行われています。そして、その周期は寺院ごとに異なるので、毎日のようにお祭りが行われています。
2つ目の民間人の祭事の多さについて、バリ人は「婚約・結婚・妊娠・出産・あかちゃんに髪が生えたとき・赤ちゃんが初めてご飯を食べるとき・成人・亡くなったとき」にお祭りをします。日本人も似たようなタイミングでイベントをしますが、その規模が全く違います。私が見た際には、80人くらいの人が全員白い恰好をして、祈っていました。話を聞いた現地の人は毎週のように誰かの祭事に参加することがあるそうで、バリ人は祭りをたくさんやるせいでお金が溜まらないと言っていました。
おわりに
あまり宗教に馴染みがなかった私にとって、熱心に宗教を信仰している人がたくさんいる土地ではかなり驚くことがたくさんありました。全く馴染みがない土地の現地の人にその土地の価値観を聞くことは、初めてかつ非常に面白い経験でした。
コメント