考えることは頭脳労働者の基礎であり、考えるという行為を理解することは必須である。
しかし私たちは唯一の答えを求める教育を受けて育ってきたため、社会で必要とされる「考える」という行為を理解・実践できている人は非常に少ない。そのため、今回はこの「考える」とはどういうことかについて、具体的な要素を挙げて説明する。
「考える」のポイント
考えるとは、多くの要素を複合したものである。ここでは、その中でも重要な9つのポイントを挙げる。
①具体と抽象で考える
具体的に考えるとは、物事を細かくみることである。逆に抽象的に考えるとは、物事をざっくりみること、言い換えると他のものとの共通点をみつけるということである。
たとえば「バスケ」と「サッカー」は違う競技であるが、ボールを使うという共通点に気づくことができればこの2つを「球技」と抽象化することができる。逆に球技の具体例を聞かれれば、具体的な例としてバスケやサッカーをあげることができる。
現実には全く同じ現象が2回と起こることなどありえない。そのため「適切に」物事を抽象化することができて初めて自分のみたものを別の事例に適用することができる。
(適切に抽象化できていない例)
A君がなんのきっかけもなくいきなりB君を殴ってしまい、先生に怒られた。そのためA君は「B君を殴って怒られたから、今度からはC君を殴ることにしよう」と考えてしまった。
また、C君は先生に怒られているA君をみて「絶対に人に暴力をふるってはいけない」と考えたため、後日A君が殴ってきたときも無抵抗のままボコボコにされ続けていた。
適切に抽象化できないとA君やC君のようになってしまう。A君は怒られた理由を抽象的に考えられなかったせいで、C君なら殴っても大丈夫と考えてしまった。またC君も適切に抽象化ができていない典型的な例で、自分が攻撃を受けているにも関わらず、人を殴ることはいけないということを拡大解釈した結果痛い目をみることになってしまった。
「A君がB君を殴り、先生に怒られた」というのは具体的な一つの事例である。この事例における適切な抽象化は、無意味に人に暴力を振るわないこと、などであるはずだ。しかし同じ事例をみてもA君やC君で変な捉え方をしているように、適切に抽象化できないと意思決定を大きく間違える可能性がある。全く同じ事例が起こらない以上、具体的な事例からどう教訓を抽象化して学べるか、そして抽象化した教訓をどう普段の具体的な事例に適用するかが重要である。
②要素分解する
物事は様々なものが複合して起きているため、要素分解してバラバラにすることにより物事を理解しやすくなる。
特にコミュニケーションをとる際に要素分解は大切になる。言葉の字面だけを追っていても円滑にコミュニケーションは回らない。その場の状況や背景、それぞれの人の立場などの要素を分解することによって、初めて言葉そのものの意味だけでなく、裏の意図まで理解ができるようになる。
③粒度を合わせる
粒度とは言葉や情報の細かさのことを指す。議論をする時に粒度が揃っていないと話が整理できなくなってしまう。
たとえば何人かで旅行をするとなった場合、まず決めるべきは予算や日程のような旅行の大枠を決めることだろう。もしこの状況で3日目のお昼ご飯は何を食べるかについて話し始める人がいたら、粒度が違いすぎて話が進まない。
このように同じ話題について話していても、粒度が揃っていないと議論の本筋が見えなくなり、今何を議論しているのかを見失うことになる。
④定義づけする
ここでの定義づけとは、物事に自分なりの意味づけや解釈を明確に行うということである。これができていないと漠然としたイメージで物事を判断してしまい、結果うまくいかなかったときに「なんかイメージと違うな」と原因もわからぬまま苦しむことになる。
自分の進路やキャリアを考えるときは特に定義づけが重要となる。就活をするときに社会人生活について自分なりの定義づけをしっかりしていれば、会社に入ったときにイメージとかけ離れた生活を送ることは少ない。定義は人によって異なり、「仕事を頑張りたい」という人もいれば「仕事はそこそこに趣味を楽しみたい」という人もいる。大事なのは就活の時点で自分なりの定義をしっかりしておくことだ。これができないと自分のイメージする社会人生活とはかけ離れた生活を送ることになり、ほとんどの場合それはイメージよりも悪いものになる。
注意すべきなのは、定義に絶対のものはなく、あくまで仮のものだということだ。人によってどう物事を定義するかは異なる。また自分で定義づけしたものであっても時が経って成長したり、様々なことを経験したりすることで過去の定義がアップデートされることもある。自分で設定した定義を絶対のものとして他人に押し付けたり固執したりせず、「今自分はこのような認識をしている」程度のものだと捉えておくことが大事だ。
⑤仮説と検証をする
仮説と検証の力は、物事を判断する上で必須である。学校のペーパーテストとは全く異なり、実社会には絶対の答えなど存在しない。見方によって正解は異なる。そのため答えそのものを知ることにはほとんど価値はなく、自力で状況に合った自分なりの答えを出すことができる力が求められる。
ではどのように自力で自分なりの答えを出すか。それが仮説と検証をすることだ。情報を集め、抽象化をしながら自分なりの仮説をたてる。次はその仮説がどれくらい合っているかを検証する。このサイクルを繰り返すことで答えに近づくことができる。④で述べた定義を行う際にも仮説と検証は大きく役にたつ。
答えは状況によって変わる。だからこそ仮説と検証により自力で答えを出す力を身につける必要がある。
⑥表面と本質を区別する
本質は表面に出る。しかし表面をみて本質を誤解してしまうケースは非常に多い。
たとえば上司があなたに怒ったとする。これは表面の部分であるが、では「なぜ上司が怒っているのか」という本質はなんだろうか。もしかしたら上司はあなたに成長してもらいたいのかもしれないし、極めて致命的なミスだったのかもしれないし、単なるストレス発散で怒っているだけかもしれない。さまざまな理由が入り混じって怒っていることもあるだろう。
これらのことを踏まえ、上司がなぜ怒っているのかについて慎重に判断する必要がある。表面部分をみて本質を理解することは難しいということを理解していないと、短絡的に結論を出してしまい、信頼関係を損なったり自分が苦しんだりすることになる。
⑦事実と所見を区別する
事実と自分の所見を混同してはいけない。説明がわかりにくい人はたいてい事実と所見をごちゃまぜにしてしまっている。
作業の進捗報告を求められた際にはまず予定通りなのか、それとも遅れているのかという事実を報告することが大事である。作業が難しかったことや時間がなかったことといった所見の部分は、問われたら答えればよい話であり、進捗報告で一番に話すようなことではない。
事実と所見を区別できていない人の説明はポイントが聞き手に全く伝わらないどころか、自分でも何を言っているかわからなくなる。説明を行う際には今自分が事実を話しているのか、それとも所見を話しているのかを意識することが重要である。
⑧目的・手段・ゴールを区別する
目的・手段・ゴールは気をつけていないとすぐゴチャ混ぜになってしまう。ここでの目的とは最終的に到達したい状況のことを指し、ゴールとはその目的を達成するために長いスパンや短いスパンで設定する中間目標のことである。
たとえば会社にシステムを導入するという場面を考えたときの目的・手段・ゴールの例としては、
目的:会社を良くする
手段:システムを導入する
ゴール:スケジュール通りにシステム導入を行う
となる。しかしシステム導入のプロジェクトを進めていくうちにシステムの導入そのものが目的となってしまうと、会社を良くするという本来の目的とはかけ離れたシステムが納品されてしまうことになる。またゴールを達成するためにスケジュールを意識しすぎても本来の目的は達成されない。
目的・手段・ゴールを取り違えてしまうと本来一番重要だったはずの目的がいつのまにか忘れ去られてしまう。その状態のまま進んでしまえば取り返しがつかないことが起こってしまう。そのため日頃から目的・手段・ゴールが何か、意識することが大事である。
⑨網羅性・完全性を意識する
ここでいう網羅性・完全性とは、重大なことに抜け漏れがないことである。完全性とあるが、だからといってとても些末で細かい情報まで100%ひろいに行く必要があるわけではない。網羅性・完全性を保って考えることは、適切な粒度の意識や抽象化が出来ないと難しい。
たとえば地球の陸地がどうなっているか理解したいとなる場合、どう考えるか。
ア 世界の主要大陸を理解する。
イ 国を羅列してみる
ウ 世界地図を引っ張り出して北から片っ端にあげていく
おそらくアのように考えるのが一番適しているだろう。小さい島などは考えられていないが、主要大陸を抑えれば地球の陸地の大半は考慮できる。イやウの選択肢は労力を注げば完全に世界の陸地を網羅できるだろうが、お題をみればそのようなことを求めているわけではないと理解できるだろう。大事なのはアフリカのような主要な大陸を完全に網羅することであり、小さな国やどこかの村などは必要とされていない。もし必要となった場合はそのときに調べればよい。小さなことに気をとられてアフリカを見逃していたら話にならない。
このように、実生活で求められる網羅性・完全性とは、重大なことに抜け漏れがないことである。何がどのくらい重大かを適切に判断するためには、適切な粒度の理解や抽象化の力が求められる。
まとめ
今回は頭脳労働者の肝である「考える」のポイント9つについて説明した。これらのポイントが出来ている人が頭の良い人、仕事ができる人と評価され、出来ていない人は頭が悪い人、仕事ができないと判断されてしまうため、きちんと考えるためにこれらのポイントを理解することは重要である。しかしこれらのポイントを知ったところで、訓練をしなければ実際にできるようにはならない。大事なのは環境が変わっても自分の頭で考えて仕事ができるようになることである。そのためには「考える」際のポイントを普段から意識して少しずつ習慣化し、徐々に自然にできるようにしていくしかない。
※「考える」を理解するには、まず「無知の知」「認知能力」「メタ認知力」の理解が前提となる(別資料)
感想
今回の勉強会で学んだ「考える」のポイントについて、出来ていないと心当たりを感じるポイントがいくつもあった。特に事実と所見を混同したり、目的を見失ったりすることが自分は多いため、常日頃から自分の発言や行動を見返して少しずつ考える力を身につけていきたい。
コメント