25歳~32歳の約7年間、アパレルショップの店長を務めた体験談を紹介する。ここでは私が勤めたブランドでの内容のため、全てが参考になる内容ばかりではないものの、これからアパレルショップの店長になりたい、もしくはなる予定の人や現在店長を務めている人の参考になることを目的としている。
アパレル販売員のキャリアアップや仕事に関する記事はこちら↓

私が店長になったのは、前々職の時に、当時の店長が寿退社をしたことがきっかけであった。
その職場でまずは社員になることを目標に働き、入社して1年半で社員になることができた。それから3ヶ月後には副店長が退職し、その後任を務めた。社員になって間もなくのことであったため、副店長という肩書に嬉しさもあれば責任感が増す不安もあったが、当時の店長との関係も良好で、順調に業務をこなすことができた。
副店長になって約半年後、店長から寿退職を考えているため店長になってほしいとの話があり、なんの迷いもなくその話を受け入れ、その話から2か月後に店長に昇格した。
当時は私の地元である地方の店舗で働いていたが、店長になって約4か月後、東京に転勤することが決まった。実のところ、ブランド自体の経営が大きく傾いていたため、地方の店舗数を減らすことが目的であり、一部の地方店舗と都内店舗で経営を支えることとなったためである。店長として初めて務めた店舗が閉店することにショックも大きかったが、同時に上京できる嬉しさも感じており、また東京の店舗で引き続き店長として働けることに気合も入っていた。
上京してからも、新しいスタッフとの関係も良好で、他店舗の先輩店長や本社の人にもたくさんお世話になった。地方店舗では経験できなかった忙しさや、店長としての知識や考え方など、日々たくさんの刺激を受けて充実した日々を過ごしていた。
しかしやはり、会社の経営は相当厳しかったこともあり、上京して約半年後に倒産した。大好きなブランドが無くなってしまった悲しさと、今後の将来の不安が一気に押し寄せ、1週間抜け殻状態で店舗や会社の片づけを行った。
今後をどうしようかと悩んでいた時、倒産したブランドの部長から前職の職場を紹介され、面接を受けた。正直名前しか知らないブランドであったが、とにかく働き口に悩んでおり、また店長として雇ってくれるということもあり、その紹介を断る理由は無かったため、新しいブランドでまた店長として働けることになった。
店長になって変わったこと
待遇
前々職では基本月給として18万程度に、役職手当としてプラス2万の合計20万程度が手取りであり、その他ボーナス等は無かった。
前職では一般社員の基本月給は20万程度、店長は基本月給が23万であり、さらに役職手当は3万円の合計26万が手取りであった。またボーナスについても、2月と8月にそれぞれ20~30万ずつ支給されたが、一般社員は5~10万であったため、店長は比較的好待遇であった。
また、店長以上の役職に就くと、9月と2月に強制的に夏休みと冬休みとして、それぞれ4~5日程度の連休が有給休暇とは別途付与された。
労働時間
待遇面から見ると一般の従業員に比べて好待遇ではあるものの、その分労働時間は大きく増えた。一般社員は月に170時間程度が基本労働時間であり、そこにプラス月15~20時間程度の残業時間であったが、店長以上になると月に約200~220時間が基本であり、さらに20時間~30時間の残業時間であった。
いうならばほぼ毎日通しであり、定時で上がれることはほぼ無かった。
業務
アパレル販売員の正社員の仕事を大きく分類すると、売り場管理、予算・売上管理、従業員管理、在庫管理、接客に分けられるが、主に店長が行う重要な業務は書類作成と従業員管理である。
書類作成に関しては、テナントに提出する書類や、毎週・毎月の報告書、シフト・予算書、イベント企画書、商品や備品の発注書等であり、ほぼ毎日何かしらの書類を作成していた。また日中はお客様対応や商品管理がメインのため、書類は基本的には休憩中か閉店後に作成しなければならず、書類作成により残業になることが大半であった。
従業員管理については、社員の評価や指導、アルバイト従業員のサポート、担当店舗の従業員との定期面談が主な業務であった。特に定期面談では従業員の話を聞くよい機会ではあったが、働き方の希望や、他従業員などの不満を聞く機会も多く、シフトの調整やトラブル解決には頭を抱えることも多かった。
店長として、自分がもうあと2人欲しいくらい追いつめられることもあったが、それが結果としてお店の売上向上に繋がるときは達成感も大きく、自分の自信に繋げることもできた。
大変だったこと
- 率先してクレーム対応に応じなければならないこと
店舗の責任者として必ず通らなければならない道である。客の勝手な言いがかりや、自分以外の他従業員が犯したミスであっても、店長は率先して対応しなければならない。客からすれば、気に入らないことや店長以外のミスも店舗の責任者として店長が悪いという目線を持つ人が多く、店長という肩書に良い面だけで溺れてはならない。と分かってはいても悔しく惨めな思いになることも多くあったため、そんな日は私の場合はよくヤケ酒をした。
嫌な思いをすることは多かったが、そのおかげで、次にこのようなことが起こらないためにはどうするべきか、また自分に足りないことはどんなことであったのか振り返ることができ、店舗や自分のためにも成長の糧になったことも事実である。
- 売上という数字のプレッシャー
どの店長も経験することではないかと思う。ブランドとしても気にしなければならないが、売上が下がるとテナントからも圧をかけられる。売上が落ちる、もしくは低い店舗は撤退することを突き付けられるため、店舗存続のためにも売上は常時気にしなければならない。
売上を左右する要因は店舗の環境以外にも天候や時期、社会的な環境の変化等の外部要因もあるが、いずれにしてもなぜ売上が良かったのか・悪かったのか、先月もしくは前年同時期との違いは何であったのかを冷静に分析し、策を打たなければならない。
確かに売上はプレッシャーではあったものの、前年比や月予算を達成した時の達成感はとても気持ちよく、そんな時は従業員同士で達成の打ち上げをすることが楽しかった。
- 店舗全般管理とプレイヤーの両立
店長である以上、店舗管理をするだけが仕事ではなく、当然プレイヤーとして個人売上も上位でいなければならない。店長はやることが多くあるから個人売上が低くても仕方ない、なんて理屈は当然通らず、むしろアパレル販売員のメイン業務は、立場に関係なく接客して売上を立てることである。
とは言いつつ、前職で働き始めた当初はその両立が難しく、とにかく管理業務を閉店後に行い毎日帰宅が23時頃や終電になることがほとんどであった。前職は、前々職の環境とは比べ物にならないくらい客数も多く忙しい職場であったため、1日の大半は接客であり、少しの時間の使い方がまるでできていないことで接客と管理業務を同時進行することができなかった。
時間の使い方について上司に怒られることもたくさんあったが、お客様の流れを分析し他の従業員に売り場を任せるタイミングを率先して作ることや、また上司の動き方を観察することで徐々に両立できるようになった。当時は悔しさからがむしゃらな日々を過ごしていたが、店長たるもの冷静に周りを分析する力が必要であったと思い、当時の自分に教えてあげたい。
- 従業員同士のトラブル対応
ほとんどの従業員が女性であり、また年齢も幅広い職場であったため、従業員同士のトラブルは頻繁に起こった。例えば、〇〇さんに自分が接客していたお客様を取られて個人売りを逃したとか、そのせいで話しづらくなって一緒のシフトになりたくないとか、正直なところ「それなりにいい大人だし、勝手に解決してくれ」と言いたくなることばかりであった。しかし、従業員のモチベーションが上がらず接客に影響が出てしまうことや、シフトにも影響することから放置もできない。
私が経験した中では、とにかくまずは従業員の訴えをひたすら聞くことが大切であると感じた。とにかく感情的になっているため、まずはその感情を落ち着かせるためにとことん話を聞く。そうすることで従業員もスッキリするのか、こちら側の話も冷静に聞いてもらえる。そしてこちらからは、従業員を大きく否定することを言ってはならず、今回起きたトラブルを機に、このような決まりを作り周知しようと思うがどうか、等の提案をすることで従業員も自分のトラブルに親身に対応してくれたと感じ納得してくれ、解決できることが多かった。
私の対応が正解とは言わないが、何よりもまずは従業員の話を聞き落ち着かせることは重要である。
学んだこと
- 何事にも率先して動くことの重要さ
私は元々じっとしていられないタイプの人間であるが、嫌なことからなんとか逃げてきた人生を送っていた。自分に都合のよいことには率先して動くが、嫌なことは遠回しに誰かに押し付け、その人に下手に出てなんとかその場をやり過ごすような、人としてクズな一面を持っていた。しかし店長を経験したことで、そんなクズな一面が少しでも改善されたと感じる。
特に前職では忙しい職場であったため、何か起きたときや改善しなければならないことは他の従業員や時間がどうにかしてくれることはなく、考える間もなく解決することが求められた。誰かになんとかしてもらえるのは自身がどうにかできるようになってからの話であり、まずは自分から率先して行動にでなければ何も前に進まない。嫌なことから逃げてきた自分が少しでも成長できる環境で働けたことはとてもよい経験になった。
- 従業員を信頼すること
店長だからと言って、何事も全て1人で抱え込まず、従業員を信頼し任せることは重要であると感じた。何でもかんでも自分でこなそうとすることは非効率であり、効率的に仕事を行うためにも従業員がいて、それぞれの役割がある。
何でもかんでも自分がやった方が速いしミスもないという気持ちがあり、全部を私がするからと言って結局残業して怒られる時期があった。そしてその時の上司に、「私が店長のことを信頼して色々任せることと同じで、店長も従業員のことをもっと信頼して任せてみたら?楽しいだけが良好な人間関係ばかりではないよ。」と言われ、気付かされた。
もちろんミスが無いに越したことはないが、誰しもがミスをして成長する。その場1つのミスを恐れずに、まずは従業員の成長のためにも、そしていずれ自分が店長として効率的に仕事ができるようになるためにも、まずは従業員を信頼して任せることが重要であると学んだ。
- 責任感を持てるようになったこと
販売員として働く中で、いずれは店長を目指したいと考える人は多いと思うが、そこに伴う責任感は経験しないと分からないことも多くある。責任感と言われるとやはり重い言葉ではあり、責任ある立場だからこそ辛い経験も多くある。
責任ある仕事を任せてもらえるということは、その分自身が成長し、信頼を得られて待遇も上がる。そして、だからこそやりがいを感じ、チャレンジ精神も向上し、前向きに仕事に取り組むことができる。その面でも、責任ある立場を経験できたことで、新しいことにチャレンジし、自分にも自信を付けることができた。
やってよかったと思えたこと
- 多くの人と出会えたこと
他ブランドの店長や、テナントでお世話になった管理部の人、お客様といった多くの出会いがあり、店長としても一個人としてもたくさん助けられた。
特に他ブランドの店長とは多くの情報交換をし、店舗の売上向上として参考にさせてもらえただけでなく、プライベートでも飲みに行きお互いに愚痴を言い合い慰め合い元気をもらえた。今でもよい関係が続いており、心から出会えて良かったと思える存在の人達である。
テナントの管理部の人には、店舗の相談を聞いてもらい、親身に対応してもらえた。
そして顧客様には、とにかく店長、と言って会いに来てくれる人がたくさんいて、私個人の信頼だけでなく、「店長」としての信頼も多く得られたと感じている。
店長として多くの素敵な出会いがあり、その出会いに日々多くの元気とやる気をもらえていた。
- 前よりも強い自分になれたこと
すぐに落ち込んでしまうことや嫌なことから逃げ出してしまう性格であったが、店長という経験により精神的に強くなることができた。
特に私は精神的にへこみやすく、引きずってしまう性格であったが、店長がゆえにいちいちへこんでいる余裕はなかった。根本的に強くなれたわけではないため表面的な部分であっても、社会人として最低限必要な強さは身に付けられたと感じる。
- 上司や部下から、私が店長で良かったと言ってもらえたこと
退職する時、何よりも嬉しい言葉であった。店長としての度量やそもそも人としてなっていないことが多い私であるが、そんな自分ができることを日々考えて行ってきた成果を感じられた。
私は人として足りない部分が多く、子供がそのまま外見だけ大人になってしまったような人間であるが、そんな自分でもできることが、自身の性格を活かすことであった。常に明るく活気があり、とにかく皆が働きやすい環境にしたいという思いも強く、とにかく良好な人間関係を築くことに注力した。
店長として足りない部分は多くあるが、少しでも私を認めてくれたものがあることに嬉しく、次に繋げるための活力ともなった。
転職理由
店長という立場でありながら、32歳にして転職することを決断した。その理由は今後の将来のためを考えてのことであった。
職場の環境には大きく不満はなかったものの、待遇面は非常にブラックであった。社員であるにも関わらず社会保険の加入がなかったことや、給料日に満額の金額が振り込まれない等の経済面のずさんな管理状況が見え始め、そしてコロナ禍で売上が厳しくなりさらに給与に響いたこともあり、将来性の心配を考慮し転職を決めた。
元々土日休みの職業に就きたいと考えていたことから、店舗での販売員系のサービス業は全く考慮せず、事務か営業職を中心に転職活動を始めた。世の中の事務をしている人には申し訳ないが、実際のところ事務は気軽にできてあまり残業もなく、多少気楽な仕事のイメージを持っていたため第一志望であったが、パソコンのスキルがない私は当然ながら書類選考すら通らなかった。その反面、アパレルでの経験に加え、店長経験もあることから、コミュニケーションスキルや管理スキルがあることで営業職の内定は2社もらえていた。しかしやはり営業職は飛び込みで辛いという印象が大きく、内定をすんなり受け入れることができずにいた矢先、元々友人であった現在の職場の社長が、事務員を募集しているとの情報を聞きつけ、早速社長に連絡をし、話す機会をいただいた。IT業界であるにも関わらず、未経験でパソコンスキルがなくてもよいとのことであり、私もその場で入社することを決意した。
実際に働いてみて、事務の仕事は想像以上に厳しかった。それもそのはず、そもそもパソコンスキルがなく、事務の先輩がいる環境ではないため、一から多くのことを身に付けなければならず、ましてや30代のため20代の人に比べると物覚えも正直悪い。しかし、そんな私でも根気強く面倒を見てくれている社長には感謝しており、これからも前向きに続けていきたいと思っている。
最後に
現在はアパレル業界から離れIT会社の事務員をしているため、前職の経験を大きく活かせているわけではない。しかし、従業員管理を任せてもらっているところでは、店長としての経験を部分的に活かせていることもあり、店長の時の経験がムダであったとは思っていない。そして、今の仕事に就いた当社は厳しいことを言われて投げ出しそうになったことも多々あったが、店長の経験から精神的に少しでも強くなったことで、なんとか乗り越えられてきたこともあった。
現在は前職とは異業種に転職したため、新しい知識や技術を身に付けるためにも不要なプライドを捨て、社会人として一から新たに学んで成長しなければならない。そのためにも、店長経験としてのプライドは切り離し、よい思い出として心にしまっておこうと思う。
コメント