11年間、アパレルの販売員として働いた体験談を紹介する。アパレル業界の職種は多く存在するが、ここでは私が働いてきた職種である「販売員」についての内容である。
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私がアパレルの販売員として働くことになったきっかけは、20歳の時に専門学校を中退したからであった。中退後は就職しなければならない状況にあり、私には「中退」というブランドが付いてしまったため、とにかく学歴に関係なく働ける仕事を探すことが絶対であった。そんな中、自宅の近隣で求人をかけていたアパレルブランドを見付け、元々ファッションには興味があったこともあり、アルバイトから入社したことが始まりだった。
販売員になる方法とキャリアアップ
アパレル業界の販売員になるには、主に2種類の働き口が存在する。1つは、新卒で正社員として本社に入社し、店舗に配属される場合。もう1つは、WEBサイト(転職サイトやブランドサイト、商業施設の求人ページ等)や店内の募集フライヤーから問い合わせ、アルバイトとして店舗に直接入社する場合である。(ここでは、アパレル業界の未経験者がフルタイムで働くことが前提の内容である。)
大きな違いとしては、文字通り正社員かアルバイト、そして採用方法の違いであるが、いずれにしても店舗の販売員として働くことが可能である。始めから正社員として入社する場合とアルバイトから入社する場合では、もちろん待遇の違いもあれば、キャリアアップの流れも違う。アルバイトから入社する場合、正社員として入社した人と比較するとキャリアアップするための時間は要するものの、実力次第では正社員と同じ立場に行きつくことは可能である(ただし、ブランドによって違いはあるため、必ずではない)。
私の場合はいくつかのブランドで働いてきたが、どのブランドでも転職サイトか商業施設のWEBサイト内の求人ページから応募し、アルバイトとして入社した。中でも最後に働いたブランドでは、入社時点から、当時の店長には正社員になりたいことを伝えており、正社員になるための条件が与えられた。そのブランドでは、まずは準社員になるための条件(1ヶ月毎に設定された個人売上予算を3ヵ月連続で達成すること)をクリアし、その後正社員になるための条件(1ヶ月毎に設定された個人売上予算を6ヵ月連続で達成すること、また、正社員になるための評価表の項目を全て達成すること)をクリアしなければならなかった。私は正社員になるまでに約1年半かかったが、その後は目標であった正社員になれたことがモチベーションに繋がり、副店長を得て店長という立場まで上がることができた。
ブランドにより条件は様々であるが、アルバイトから入社した場合、基本的にはそう簡単に正社員になることはできないため、それなりの努力は必要である。
勤務形態
アパレルショップは、ビルやアウトレットのような施設に入る店舗と、施設に入らない路面店が存在するが、どちらにしても基本はシフト制であり、公休日も平日に割り当てられることがほとんどである。また勤務時間については、大きく分類すると早番、遅番、通しと分けられることがほとんどである。(勤務曜日や時間はブランドや店舗により、絶対的にこの通りではない。)
セールのような大きなイベントや年末年始等の時期により、営業時間が通常と異なることも多く、公休日についても隔日が続くときもあれば連勤して1日公休、また連勤して公休、のように不規則なため、アパレル店員(特にフルタイム)は、規則正しい生活が送れる人は少ないのではないだろうか。少なくとも、私はシフトによって起床・就寝時間が異なったため、規則正しい生活は送れなかった。
ここからは私個人の話ではあるが、プライベートにおいては行きたいイベントや友人の公休日が土日祝日なことが多かったため、そこに休みづらいことが嫌になることも多々あった。そしてお酒が大好きな私にとって、翌日を気にしないで思いっきり飲める「華金」を過ごしている人が非常に羨ましく、なんなら妬んだこともあった。今思えば非常にくだらない妬みであるが、その分まれにある土曜日休みの前日に華金を味わえるときは、とにかくいつも以上に最初のビールが美味しく、翌日の二日酔いも嬉しいほどに楽しかった。
メイン業務
日々行う主な業務は、開店準備(掃除、レジ開け)、接客、レジ、入荷商品の検品・品出し・ストック、閉店後作業(商品整理、レジ締め、掃除)である。その中でも特にメイン業務である接客について、私の体験談を元に紹介する。
アパレルの販売員と言えばとにかく接客である。お客様からの問い合わせに対応することがメインの接客もあれば、こちらから積極的にお客様にお声がけをする接客もあり、前者は主にファストファッション系のブランドに多い。私はいくつかのブランドで働いた経験があり、接客方法も前者と後者の両方を経験した。どちらが良い悪いということは無かったが、私はどちらかと言えばこちらからお客様にお声がけをする接客の方が好きであった。
こちらからお声がけをすることに対して、お客様目線からすると「ゆっくり店内を見たいから、店員さんに声かけされることが嫌だ」という人も少なくはない。確かに私もその気持ちはよく分かり、ガンガン押し売りしてくるようなイメージがあることや(実際にはそんな販売員がほとんど)、中には店員さんのハイテンションが鬱陶しいと感じることも正直ある。そしてそんな気持ちがよく分かるにも関わらず、いざ自分がお声がけをする立場になった時、一日の大半は無視され、中には「放っておいてほしい」と面と向かって言われたこともあり、大きく落ち込む時期もあった。
どうにかお客様に振り向いてもらえるよう、お客様の警戒心を解くために真正面から声をかけてみたり、お客様が手に持っている商品の類似品を持っていくことで会話のきっかけを作ろうとしたり、そんな日々を続けたことで、無視されることにも何の抵抗も無く、むしろ初めましての人に無視されることが当たり前であると思うことができ、そこからお客様の心を開いていくことに快感を覚えた。とにかく多くのお客様を観察し、試行錯誤した結果、気付けば顧客獲得数が店舗内で1位になっていた。
こんな経験から、こちらからお客様にお声がけをする接客に刺激を感じ、毎日楽しいと思えるようになった。嫌で大変な思いをしなければ、販売員の仕事がここまで楽しいと思えることは無かったと思う。
辛いと感じたこと
何よりも辛かったことは、お客様からのクレーム対応である。クレーム対応と言っても事の大きさは大小あるが、まれにある大きなクレームやお客様からのお叱りの対応は何よりも逃げ出したくなる状況である。
これまでに経験した大きなクレームの中でも、何よりも印象に残っていることが、とあるお客様を試着室で対応していたとき、言葉遣いが正しくないと指摘を受け、そこから約3時間のお説教タイムを受けたことである。どうやら過去に国語の教師をしていた経験のある年配女性の方で、とにかく言葉遣いにおいてはどんな小さな間違いであってもその場で正さないと許せないとのことであった。確かに、正しい日本語を使えなかった私が悪いことではあったが、3時間その方に付きっ切りであったため、他のお客様の対応にも出られず、少し断りを入れて離れようとしても試着室で怒鳴り散らすためなかなか離れられず、ひたすら下手にでて耐えたが、正直途中から発狂しそうになった。その後、その状況をあまりにも見かねた他のお客様が、その年配の方に一言「あなたの声がうるさくて迷惑です」と言ってくださったこともあり、その場を収束させることができ、お客様に助けられた。あの時の経験は一番辛いと感じたが、言葉遣いを直すことや、発狂しそうになる気持ちをひたすら抑えて耐えるということを身に付けられ、今では感謝するぐらいの存在でもある。
もう1つ辛いと感じたことは、1番始めに働いた大手アパレルブランドで経験した棚卸である。大きな店舗であったため在庫数も想像できない程多く、一言でいうととにかく地獄であった。元々何かに集中してコツコツ行うことは好きであるため、初めて棚卸を経験するとなった時は楽しみで気合いも入っていた。しかしそんな気持ちは長くも続かず、開始1時間後には、見上げる高さまで畳まれた終わりが見えないほどの在庫を前に、ひたすら無の状態になった。間違いも許されないため、他の従業員との会話も休憩室以外は基本許されない。そして他の従業員も私と同様抜け殻状態なため、休憩室での会話もはずまない。さらに午後になると眠気との闘いもあり、集中力が途切れてしまう。周囲の目を気にする余裕は残されておらず、胡坐をかきながら一点見つめの状態で、心の中は数を数えることしか機能していない状態であった。これは10年以上も前の出来事であるが、今でもあの棚卸を思い返すと、二度とやりたくない。
そんな棚卸であったが、とうとう作業が終了する時をむかえ、終了した瞬間に周囲にいた従業員と無言で熱い握手を交わし抱き合っていた。そんな辛い棚卸を一緒に乗り越えた従業員同士の絆も深まり、その後みんなで打ち上げとしてファミレスにご飯を食べに行ったが、その時間がとても身に染みた。
学んだこと
販売員として学んでことは、「聞く」と「気を利かせる」ことの重要さである。
人との関わり方については、「相手の話を聞く」ということの重要さを学べた。私は口がよく動く方なので、今思えば相手の話を真剣に聞かず、ひたすら私の話しをするばかりであったため、友人からもその指摘を受けたこともある。そのため、顧客様を増やしたい、売り上げを上げたい、従業員と良好な関係を築きたい、という思いから「聞く」ということを意識して業務にあたるようになった。自分が話したくなる場面がきたら、その気持ちを抑えてとにかく相槌を打つ、これをひたすら繰り返した。その結果、お客様の話をきちんと聞くことで要望や好みが多く引き出せるようになり、単品買いでは無くおまとめ買いが増えるようになった。そのため個人売り上げの数字も安定して上位をとることができ、お客様だけでなく、従業員からも今まで聞けなかったような悩み事を話してくれるようになり、従業員との関係性も深めることが出来た。人の話をきちんと聞くことは、社会人としての基本として当たり前のことであると誰しもが分かっていることであると思うが、これを養うことは容易ではなく、自分はきちんと聞いている「つもり」になっている人も多くいるのではないかと思う。
気を利かせるということについても、お客様にも気持ちよくお買い物をしてもらいたいからこそ養われたものであった。本来そこにあるべき鏡や椅子が、ベビーカーが通る度に邪魔であったら配置を検討し変更したり、手に商品をたくさん持っている方がいたら預かったり(万引き防止にもなる)、他店でお買い物した袋が多いもしくは大きくて店内を歩きづらそうにしている方がいたら預かるかどうかのお声がけをしたり、販売員が出来る限りのことは積極的に行うようにした。
また、限られた従業員の中でお店を回していくため、業務についても、担当業務でなくてもどんなに小さなことでも気付いたら自ら進んで行った。そうすることで一人一人の作業量の負荷を減らしながら仕事ができ、従業員同士気持ちよく仕事ができることを実感した。立場に関係なく、作業の大小に関係なく、気付いた作業を自ら進んで行うことで、自然とお客様が買い物を楽しむ環境ができ、従業員も伸び伸び働くことができる。
アパレル販売員あるある
どんなことにも「あるある」は存在するが、ここではアパレル販売員としての内容を紹介する。(私の経験上や同業者の知人からの統計である。)
プライベートで必要以上に丁寧な言葉遣いが出てしまう
例えば飲食店でセットメニューを頼んだ際に、店員から飲み物は何にするか聞かれてまだ飲み物を決めていなかった場合、通常であれば「少し待ってください」と言えばいいものの、思わず「少々お待ちください」と言ってしまう。その瞬間少し店員も戸惑った感じになってしまい、若干気まずくなる瞬間がある。これが地味に恥ずかしい。
他店でも、商品・什器の並びや向きが揃っていないものを揃えてしまう
プライベートで他店に買い物に行った際、例えばハンガーの向きが違うものが混ざっていると、つい正しい向きに直してしまうことや、Lサイズの洋服が集まっている中に1つだけでMサイズが混ざっていた場合に、Mサイズを本来ある場所に戻してしまう。だから何、と言われるようなことではあるが、そんな細かいことが気になって勝手に手が動いてしまう。
早番で上がれるときに限って上がれない
シフトについて、管理する立場になるほど通しや遅番になることがほとんどなため、月に2~3回ある早番の日が楽しみになる。しかしそんな時に限って、上がる5分前に顧客様が来て結局上がれず、いつもと同じような時間に上がる。もちろんその分売り上げは大きく立つものの、早番で上がった後はどこかに寄り道して帰る計画を立てていただけに、正直顧客様が店内に見えた瞬間に「何でこのタイミングで…」となんとも言い難い複雑な心境になる。
最後に
アパレルの販売員として大変な思いもしてきたが、毎日誰かと話せる環境が楽しく、とにかく元気をもらえることや、元気を保てる仕事であると実感した。接客業に抵抗がある人も少なくないが、中でもアパレルの販売員は、自分の好きなお洒落を楽しめるという観点でも、働いてみたら嫌なこと以上に楽しい経験が多いと感じる。
私は前職での待遇面の都合により転職してしまい、現在はデスクワークという全くの異業種で働いているが、現在の仕事に後悔はないものの、今でもアパレル販売員が恋しくなる瞬間があり、それくらい楽しかった思い出がたくさんある。
今のところアパレル業界に戻る予定はないが、今でもお洒落をすることが好きであり、その日1日のやる気を保つためにも、組み合わせや季節に合わせた着こなしをする等、気を遣っている。お洒落をすることはモチベーションの向上にも繋がる1つの手段になると思っているので、これからもお洒落に気を遣っていきたいと思う。
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